人も自然もいきいき! 丹沢大山の自然環境の保全と再生を推進する 丹沢大山自然再生委員会
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> 24.ニュージーランドの里山散策(後編)
丹沢ジャーナル
2004年7月「丹沢再生への挑戦7」神奈川新聞掲載
枠超えて意識共有を
中村 道也 NPO法人丹沢自然保護協会理事長
<解説>
首都圏に残された数少ない貴重な緑として、県民に安らぎと潤いの空間を提供している丹沢・大山地域。その「健康診断」ともいえる総合調査のスタートをきっかけに、同地域にかかわりの深い識者がリレー形式で筆を執り、丹沢の現状を報告します。(2004年5月「丹沢再生への挑戦1」神奈川県自然保護協会会長 新堀豊彦氏の末文より)
子供のころ塔ヶ岳によく登った。上ノ丸を過ぎたあたりからサルオガセがたくさんあった。長尾尾根の金林のタルには小さな水場があり、よほどの渇水でない限り、きれいな水がわいていた。いまのようにペットボトルの必要もなく、のどが渇けばササの葉にたまった水滴をなめた記憶がある。
息子が五歳の時、20年ぶりに堂平から丹沢山へ登った。私が子供のころ、登山者の腰の手ぬぐいにつかまって歩いた一面背丈ほどのササヤブはなかったが、息子が木の根につまずいて転がっても、受け止めるヤブは、まだ残っていた。
その数年後、サガミジョウロウホトトギスやイワタバコの群生を見に行った、山歩きの苦手?な女房はササや雑木につかまりながら何とか稜線(りょうせん)までたどり着いた。いま、同じ場所にササはない。
林床植生が衰退した稜線近くの生物は瀕死(ひんし)の状況にある。
十年来要望を続けた学術総合調査が1993〜96年にかけて、丹沢に関心のある多くの人の期待を集めて実施された。首都圏に位置し、大勢の人に関心を持たれながら、さまざまな角度からの調査は初めてのことであった。その調査結果は私たちの予想以上に丹沢の自然環境の劣化を指摘した。
調査報告を受けて県は検討委員会を設置、その後、丹沢大山保全計画を策定した。
計画に沿った事業は展開されたのだろうか、その成果はあったのだろうか、事業の評価や検証はされたのだろうか。少なくとも丹沢の中で行われる各種事業は調査報告に基づき策定された保全計画を基本にしたのだろうか…。
一斉伐採一斉造林の「林業」が盛んだったころ、豊富な下草によって野生シカの個体数が一気に増加した。それに伴い発生した林業被害に対し、県は駆除による対策をとらず共存の道を選び防鹿さくを設置した。これは全国に先駆けた考え方、手法であった。しかし、この試みは後年、野生シカが高標高地の植生に圧力をかける、という、思いがけぬ現象をもたらした。また山ろく部では大規模な宅地開発が展開され、都市化とともに周辺の森林は荒廃し、野生動物は田畑で採食を強いられ、あるいはさらに山の中へと追いやられていった。
野生動物が山ろく部(人間社会)から駆逐される事実は、人間は自然と共存する意思がないことを意味している、真に生態系のかく乱は人間の手によって始まったといえる。
私たちは野生動物を保護する手段としてコリドー(緑の回廊)設定の必要性を国や県に提案した。世附国有林の一部を鳥獣保護区に設定すること、丹沢を管理する各出先機関を一元化し丹沢を総合的に管理することなど…。
私たちNGOは考えや意見を行政に伝えることはできる。しかし、実行に移すのは行政の責任である。丹沢を貴重な財産・県民の宝…と言いながら、県が行政の中で丹沢をどう位置付け、どういう方向に持っていこうとしているのか、まだ明確ではない。
「丹沢大山管理センター」という仮称で要望した出先機関の再編は「自然環境保全センター」という名称で再編・統合された。丹沢の一元管理はとりあえず実現し、これまでの個別事業から問題意識の共有、解決のための協働が見られるようになった、しかし、行政全体ではいまだに縦割り意識と、旧来の組織の枠組みの中で依然硬直化しているように見受けられる。
今回の総合調査は十年前と比較し、さらに予算の縮小と短い時間の中で行われる。私たちNGOはとにかく、研究者は以前と同じようにほとんどが「持ち出し、手弁当」であろう。それでも多くの人が参加するのは丹沢という掛け替えのない財産に対する問題意識の共有と、保全に対する共通の目標があるからと思う。それを考えたとき、協働や問題意識の共有は行政にこそ必要であり、「水源」として直接県民にかかわりを持つ生物多様性の丹沢の保全・再生のためには、関係機関の枠を超え、県庁一体となって取り組む必要を感じる。
雨上がりの渓流は森林管理の鏡。
濁流の上流は私有林。清流は県有林。
わずか数年の管理手法の逆転が、多様性の質まで逆転させた。2008年8月
体長10センチほどの野鳥が一年間に捕食する昆虫は、約、13万羽と言われる。
森が元気なら、川も元気。魚も鳥も元気なら、私達も元気だ。
渓流生態系を維持する工事手法、スリット型治山堰堤の説明を受ける「丹沢フォーラム」参加者。2010年11月