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丹沢ジャーナル

2011年3月「子ども樹木博士ニュース」No.42掲載
エメラルドの夢(前編)
木平 勇吉   東京農工大学名誉教授  丹沢大山自然再生委員会委員長
<解説>
この記事は「子ども樹木博士ニュース」No42 (2011年3月)の巻頭言です。子どもが樹木と自然に親しむ機会を広める目的で作られた全国組織の機関紙です。公園や樹林で木の名前を覚えるプログラムをボランテア団体や都道府県が行っています。覚えた樹木の数によって「樹木博士1級」とか「樹木博士2段」とかの実力が証明されます。


信州の伊那から南アルプスの連山と天竜川の流れが望まれます。まったく有名ではありませんが、世界で最も動植物が豊かで、静かで美しい「シャングリラ」です。
 これは磯野宏夫画伯の作品集の名前です。日本の里山から原生林、海外の森の風景と野生動物の生きる姿が描かれています。ページをめくるたびにため息が出るような素晴らしい森の姿があざやかに現れます。現実の森ではありませんが生きものが共存する雰囲気に満ちています。鬱蒼とした天然林、整然とした人工林、草原を駆ける野生動物、静寂な雪山や冬山の輝きが迫ってきます。裏山の雑木林からアシアの多雨林やアマゾンの熱帯林、サバンナまであざやかな風景が磯野画伯の独特の技法で描かれています。

裏山には広葉樹が色づき、整然と育つ杉山の深い緑とが対照的です。庭には秋草が咲き乱れ、モズが鳴いています。豊かな里山と農村を象徴する風景です。
 この知らない森の絵からは憧れの世界を体験できます。行きたい、雰囲気を体験したい衝動に駆られます。このように「エメラルドの夢」は自然への憧れがモクモクとわきあがる玉手箱です。森を知らない子どもは目を見張り、環境に興味を持つ人は絵の中に森の生態系を見つけることが出来ます。
今、自然環境を守るために「生物多様性」をはじめ多くの専門用語が使われています。しかし、磯野画伯の絵からはそのような用語を知らなくても自然や環境の多様さと大切さを知ることが出来ます。難しい専門語が並ぶ文章よりも「エメラルドの夢」からは森の価値を直感することが出来ます。

静寂な雪山にも生き物が暮らしています。新雪に覆われたブナの巨木は眠っているようですが冬芽を用意して春を待っています。四季の表情の中でも特に夢がある奥山の世界です。


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